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横浜地方裁判所 昭和47年(ワ)1193号 判決 1974年4月26日

原告 横浜日野自動車株式会社

右代表者代表取締役 伊藤真光

右訴訟代理人弁護士 田中義之助

同 北沢和範

同 渡辺眞一

被告 有限会社下田物産

右代表者代表取締役 下田府源

<ほか二名>

右訴訟代理人弁護士 落合長治

同 板谷公弘

主文

被告有限会社下田物産および被告下田府源は連帯して原告に対し、金二七九万七、九四四円およびこれに対する昭和四八年五月一三日より支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

原告の被告川西半兵衛に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告有限会社下田物産および被告下田府源との間においては原告に生じた費用を二分し、その一を被告有限会社下田物産および被告下田府源の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告川西半兵衛との間においては全部原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「被告らは連帯して原告に対し金二七九万七、九四四円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決および仮執行の宣言。

二  被告ら

「原告の請求を棄却する」旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は自動車の販売を目的とする会社である。

2  原告は昭和四六年一二月一七日被告有限会社下田物産に対し営業に使用するための自動車一台(冷凍車、四六年式KL三四〇、登録番号横浜一一さ四四七四)を次の約定により売り渡した。

(1) 割賦販売価額 五〇六万五、九四四円

(2) 支払方法 即時金として一〇万円を支払い、残金は昭和四七年二月より同四九年一月まで毎月二〇日を期限とし二〇万五、〇〇〇円づつ(但し初回のみ二五万〇、九四四円)二四回の割賦支払。

(3) 自動車の所有権は原告のもとに留保し、代金完済のときに被告会社に移転する。

(4) 被告会社は自動車又は本契約によって生ずる被告会社の権利を他に質入、譲渡、貸与してはならない。

(5) 被告会社が割賦金の支払を一回でも怠ったときその他本契約に違反したときは直ちに契約を解除することができる。

(6) 被告会社が契約を解除されたときは直ちに自動車を原告に返還する。この場合割賦販売代金相当額から返還自動車の価格を控除した差額を原告の損害とし、既に受領した代金は右損害金の弁済に充当する。

3  被告下田府源、同川西半兵衛は前同日、被告会社の前記契約上の一切の債務につき連帯保証をなした。

4  被告会社は即時金一〇万円を昭和四七年三月に至ってようやく支払ったのみで、前記割賦金を全く支払わないのみならず、前記自動車を金融業者である訴外立花正義に入質していた。

5  よって原告は被告会社に対し昭和四七年四月一七日、口頭で前記契約解除の意思表示をし、右訴外立花に対し質受金五〇万円を支払って自動車を回収した。

6  右回収自動車の価格は日本自動車査定協会において二六六万八、〇〇〇円と査定された。

7  原告は被告会社の債務不履行による契約解除により、割賦販売価額五〇六万五、九四四円から回収自動車の価額二六六万八、〇〇〇円および受領済の即時金一〇万円を控除し、これに質受金五〇万円を加えた二七九万七、九四四円の損害を蒙った。

8  よって原告は被告らに対し連帯して右損害金二七九万七、九四四円およびこれに対する本訴状送達の翌日(被告会社および被告下田府源については昭和四八年五月一三日、被告川西については同四七年八月二五日)から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告有限会社下田物産、同下田府源の答弁

請求原因第一ないし第五項の事実は認める。第六項は争う。

2  被告川西半兵衛の答弁

請求原因第一項の事実は認める。同第二ないし第七項の事実は不知。但し、第三項中被告川西が被告会社の前記契約上の一切の債務につき連帯保証をした事実は否認する。同第八項は争う。

被告川西は、昭和四六年一一月ころ、当時下田起業として砂利残土運搬業を営んでいた被告下田府源から、増車のためダンプカーを購入するにつき保証人となってほしいともちかけられ、八トン車のダンプカー購入に限定して保証人となることを承諾し、印鑑証明を交付するとともに、同人が持参した関係書類(代金額が四百数十万円でダンプカーと明記されたもの)に署名捺印して交付した事実はあるが、被告会社の本件冷凍車買入れについて連帯保証をした事実はない。

三  原告の仮定主張

仮に被告川西が本件冷凍車割賦販売契約につき連帯保証をなしていないとしても、右被告は表見代理の規定に基づき責を負う。すなわち

(1)  被告川西は、被告下田府源に対し下田起業がダンプカーを購入するにつき保証人となることを承諾し、被告下田に印鑑証明を渡して保証契約についての代理権を授与した。

(2)  被告下田は本件自動車割賦販売契約について被告川西を代理して原告と保証契約を締結したものであるが、その際被告川西の右印鑑証明を原告に交付し、同被告の実印が押捺されている必要書類を持参して本件保証契約を締結しているものであるから、仮に被告下田が右代理権を有しいてないとしても、原告は被告下田が被告川西を代理して本件保証契約を締結する権限ありと信ずべき正当の事由を有する。

従って被告川西は民法一一〇条により本件損害賠償金支払の義務を負うものである。

四  原告の仮定主張に対する被告川西の答弁および主張

(一)  原告の仮定主張は争う。

(二)  被告川西は被告下田府源がダンプカーを購入するにつき保証人となることを承諾した際、何らの代理権をも与えた事実はなく、印鑑を預けた事実もない。甲第六号証の契約書及び委任状は被告川西の全く預り知らないところであって、被告下田の偽造である。

(三)  原告は次のイ、ロ、ハ、ニの各事由から当然被告川西が本件保証契約を真実締結する意思があるか否かにつき事前に調査確認の義務があるにもかかわらず、本件自動車売買契約を被告会社と締結するまで一度も被告川西に面接又は書面による確認等を行っていない。してみれば原告が被告下田に被告川西の右保証契約を代理する権限があると信ずるにつき過失があるというべきである。

イ 原告は自動車販売を業とする者であること。

ロ 本件売買代金額は五〇〇万円以上の多額に亘るものであること。

ハ 買主下田府源ないし有限会社下田物産は原告の事前調査で財産は皆無であることが判明しており、被告川西の信用のみによって販売したものであり、かつ頭金もほとんど受取らなかったこと。

ニ 原告が被告下田府源から本件売買契約書の交付を受けたときは、右契約書には車種、金額、支払方法等全く記載のないものであったのであるから保証人が右車種、金額等を具体的に了解しているか否かにつき当然疑問となるべきであること。

第三証拠≪省略≫

理由

一  被告有限会社下田物産、同下田府源に対する請求について

(一)  請求原因第一ないし第五項の事実は当事者間に争いがない。

(二)  ≪証拠省略≫によれば請求原因第六項の事実が認められ、即時金一〇万円受領の点については原告の自認するところである。してみれば右被告らは原告に対し連帯して請求原因第七項記載の損害賠償をなすべき責を負うものというべきである。

二  被告川西半兵衛に対する請求について

(一)  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、同第二項の事実は、≪証拠省略≫によりこれを認めることができる。

(二)  しかしながら被告川西が右売買契約につき自ら連帯保証をなした旨の原告主張事実については、甲第六号証にその旨の記載があるが、これは後記のように被告下田の偽造であ(る)。≪証拠判断省略≫

かえって≪証拠省略≫によれば、被告川西は昭和四六年一一月ころ、当時下田起業と称して砂利残土運搬業を営んでいた被告下田から、増車のため同被告が新たに設立した被告会社名義をもってダンプカーを購入するにつき保証人となって欲しい旨の要望を受け、かねてから同被告の同事業に対する実績を高く評価していたので、購入予定のダンプカーが八屯車であり、代金は四〇〇万円前後であって、被告下田の説明による事業計画並びに従来の実績から同被告に充分代金支払の能力もあり採算もとれるべきことを確認のうえ同被告の要望に応ずることとし、同被告に乞われるまま印鑑証明書(甲第八号証)の下付を受けて同被告に交付し、また同被告から甲第六号証の印刷部分のみ(原告会社の記名を含む)があって書込部分の全く空欄のものを提示され、その売買契約書の部分およびこの契約を内容とする公正証書を作成するための代理権を授与する旨の委任状の部分の各連帯保証人欄に被告川西の印鑑を押捺したうえこれを被告下田に返還した。しかるに被告下田はその後まもなくダンプカー購入を取止め、被告川西に何らの相談もないまま被告会社名義で本件冷凍車を購入することに飜意し、右甲第六号証に被告川西の押印のあるのを幸いこれと前記印鑑証明書(甲第八号証)を原告社員伊藤貞之に交付し、被告川西が連帯保証人となるべきことを前提のうえ冷凍車売買の交渉を進め、情を知らない原告社員をして同号証の空欄部分に所要事項(本件冷凍車の売買代金、その支払方法等)を記載させ、もって同号証中被告川西に関する部分を偽造したことが認められる。なお被告川西本人の供述中右に反する部分は措信しない。

(三)  そこで進んで原告の仮定主張につき判断するに、右(二)に認定した事実によれば、被告川西は被告下田が被告会社名義をもって原告からダンプカーを代金四〇〇万円前後で買受けるにつき、連帯保証人となるべきことを承諾し、被告下田に対し被告川西のため右連帯保証契約を締結し、右甲第六号証の空欄部分に右代金、その支払方法等を書込むこと、そして更に右契約につき公正証書を作成するための代理人を選任すること等を一任したものというべく、従って被告下田が原告社員伊藤貞之に対し本件冷凍車買受の交渉をなし、それにつき被告川西が連帯保証人となるべきことを申込んだ点は、被告川西との右約旨に反し権限外の行為をなしたものといわざるを得ない。しかして他方原告社員伊藤貞之においては、被告下田から受領した書込部分空欄の甲第六号証に被告川西の押印があり、その印影は同時に受領した甲第八号証の印鑑証明書の印影と相似しているのであるから、被告下田がいう如く被告下田に本件連帯保証契約締結の代理権が存するものと信ずるのもまた当然であるように一応考えられないでもない。しかしながら≪証拠省略≫によれば、本件冷凍車は売買代金五〇〇万円を越える高額なものであり、原告としてはこれを僅か頭金一〇万円で被告会社に引渡し、その後二四回にわたって割賦金の支払を受くべきこととなるのに対し、右伊藤の事前調査によれば、被告会社および被告下田の右割賦金支払能力は極めて疑わしく、被告川西の資産調査の結果、同被告に充分支払能力があることを確認し、かくて原告会社としては被告川西の保証に重点を置いて右売買に踏み切ったことが認められる。このように主債務者たる買主会社もしくはその代表者個人の各支払能力に信頼がおけず、その他の連帯保証人の支払能力に極めて重い比重をおいて取引をする売主としては、取引の安全上一般に、右連帯保証人に真実保証の意思が存するか、その代理人と称するものに真実代理権を授与したかの点につきあらかじめ確認をすべき注意義務が存するというべきである、しかるに≪証拠省略≫によれば、原告会社は前記のように被告下田の申出と、同被告から交付を受けた甲第八号証(印鑑証明書)と被告川西の押印のみあって書込部分空白の甲第六号証(契約書および委任状)とにより、被告下田に被告川西のため本件保証契約を締結する代理権があるものと速断し、被告川西と直接面談するか、電話照会する等の方法で被告川西に真実保証の意思があるか、或いは被告下田に代理一任したかを確認することを全く怠ったことが認められる。してみれば原告会社が被告下田に右代理権があるものと信ずるにつき過失があるものというべきであり、原告の表見代理の主張もまた採るを得ないというの外はない。

(なお、被告川西は被告下田が原告に差入れた自動車購入の注文書に車種としてダンプカーと記載されていた旨主張し、これを立証するため原告に対して右注文書の提出を命ずべきことを申立て、当裁判所は一旦これを認め、原告に対し右注文書を提出すべきことを命じたのであるが、被告下田本人の供述によれば、同被告が原告に右注文書を差入れたかは疑わしいと認めざるを得ず、従って原告が右提出命令に従わないからといって民訴法三一六条を適用し、被告川西の右主張事実を認めることはしない。)。

三  以上の次第であるから原告の本訴請求のうち被告有限会社下田物産、同下田府源に対し金二七九万七、九四四円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年五月一三日より支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、被告川西に対する請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条を準用し、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新田圭一)

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